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東京地方裁判所 平成5年(モ)80344号 決定

主文

一  本件免責申立てに際し提出された債権者名簿記載の債権者の債権に関し、次の部分について破産者を免責する。

1  本件決定確定時の元利合計金額のうち、利息及び遅延損害金の全部並びに元本の五割

2  本件決定確定時の元本の五割に対する右確定日の翌日から一年を経過する日までの遅延損害金

二  その余について、破産者の免責を許可しない。

理由

一  《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

1  破産者は、昭和三九年一月二〇日生まれであるが、大学卒業後、昭和六二年四月に丁原株式会社に就職し、平成三年一一月に同社を退職するまで同社に勤務した。

2  破産者は、就職後、クレジットカードでスーツを購入したり、ストレス解消のためと称して飲酒遊興を重ねるようになり、クレジットカードで現金を借りて利用したりしたため、平成元年七月頃には債務総額が約二〇〇万円になつて、月収手取り約一七万円を超える約二〇万円の返済額に及ぶようになつた。

破産者は、右のように、債務が非常に増えたため、競馬で稼いで一度に返済しようと考え、平成元年七月頃から、一か月約二〇万円を競馬につぎこみ、これを約一年間続け、結果的に負債を一層増加させた。さらに、平成元年九月頃には、通勤が不便だとして、約一五〇万円の自動車を購入した。

3  このようにして、平成三年一月頃には、債務総額は約五〇〇万円に達し、もはや新たな借り入れだけでは借金返済が不可能になつたため、同年六月頃からクレジットカードを利用してパソコンやワープロ等の電化製品を購入し、それを直ちにいわゆる買取屋に安価で売却して現金を入手するいわゆる換金行為を同年九月頃まで行い、その額だけで約一七〇万円に及んだ。

4  破産者は、債務総額が八〇〇万円を超え、もはや完全に支払不能になり、平成三年九月一七日家出し、日雇いの仕事をしながらカプセルホテルに宿泊したりしていたが、平成五年一月七日に自宅に戻つた。

5  以上の結果、破産者は、平成五年一月二九日、債権者約一五名に対し、合計約八〇九万円の債務を負担し、支払不能の状態にあるとして、当裁判所に自己破産の申立てをし、同年五月七日午後三時同裁判所で破産宣告(同時廃止)の決定を受けた。

6  破産者は、平成五年三月から医療機器の販売会社に勤務して月収約二〇万円を得ており、住居は両親と同居しているため家賃の自己負担はなく、独身で、健康状態にも特に問題はない。

破産者は、破産宣告後、家族の援助も得て、約二〇万円の原資を作り、平成五年一〇月中旬までに各債権者に債権額に按分して弁済した。なお、破産者は、多少期間はかかるものの、最終的には総負債額の二割に相当する金員を貯めて、債権者に弁済する意欲を表明している。

右事実によれば、破産者の破産原因は、自らの収入に比較して過大な遊興費等や賭博行為による支出にあることは、明らかであり、破産者には破産法三六六条ノ九第一号、三七五条一号に定める免責不許可事由(浪費、賭博)があると認められる。

また、破産者の前記換金行為は、当面の支払不能状態を回避するため、すなわち破産宣告を遅延させる目的をもつてされたことは明らかであるから、破産法三六六条ノ九第一号、三七五条二号に該当する免責不許可事由もあるものと認められる。

二  次に、裁量による免責の許否につき検討するに、前記浪費等の事情は重大であつて、破産者が破産宣告後、総負債額の約二・五パーセントに相当する二〇万円を債権者に弁済していることを考慮にいれても、裁量により破産者に全部免責を与えることも相当でないといわなければならない。

しかしながら、前記認定のとおり、破産者は、約一年四か月もの間、放浪生活を続けるなど苦労しており、かなり反省していると認められること、破産者はいまだ三〇歳と若年であり、収入、生活状況、健康状態からすると、今後も努力して相当額の金員を蓄えることも可能であると考えられ、現に破産者も弁済の意欲を示していること、本件免責の申立てにつき異議の申立てをした債権者はいないことからすると、破産者に全く免責を許可しないこととするのも破産者に酷に失するものと考えられ、むしろ破産者に今後の弁済の努力をさせるのが破産者の更生にも資すると解される。

そこで、本件のように、免責不許可事由が存在するが、裁量により免責を全部許可することも、全部免責を不許可とすることも相当でないと判断される場合には、裁判所は、免責制度の趣旨から、破産に至る経緯、総負債額、破産者の現在の生活状況、更生の可能性等諸般の事情を考慮して、債務の一定割合部分のみを免責し、残部を免責不許可とすることが許されると解するのが相当である。

右見地にたつて、本件の場合の免責不許可割合を検討するに、前記の破産申立てに至る経緯(賭博による負債の増加もかなり認められる。)、破産宣告後の債権者に対する弁済額、破産者の更生可能性等を考慮すると、破産者には本件免責申立てに際し提出された債権者名簿記載の債権者の債権に関し、本件決定確定時の元利合計金額のうち、利息及び遅延損害金の全部並びに元本の五割に相当する部分については免責を許可すると共に、その余の部分については免責を不許可とし、右不許可部分の存在による再度の破産の危険性を減じるため、同部分について実質的に弁済期限を猶予する趣旨で、右不許可部分(元本の五割)に対する本件決定確定日の翌日から一年を経過する日までの遅延損害金についても免責を許可するのが相当である。

三  よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 神山隆一)

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